吉川 英治

増長天王

山目付

こんな奥深い峡谷は、町から思うと寒い筈だが、案外冷たい風もなく、南勾配を選って山歩きをしていると草萌頃のむしむしとする地息に、毛の根が痒くなる程な汗を覚える。

天明二年の春さきである。

木の芽の色、玲瓏な空、もえる陽炎、まことに春らしい山村の春。

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