吉川 英治
べんがら炬燵
雪の後
北がわの屋根には、まだ雪が残っているのであろう、廂の下から室内は、広いので、灯がほしいほど薄暗いが、南の雀口にわずかばかりつよい陽の光が刎ね返っていた。きのうにつづいて、終日、退屈な音を繰りかえしている雨だれの無聊さをやぶるように、地面へ雪の落ちる音が、時々、ずしんと、十七人の腸にひびいた。
太平記を借りうけて、今朝から手にしはじめた潮田又之丞が、その度に、きまって、書物から眸を離すので、そばに坐している近松勘六が、
「雪じゃよ」
吉川 英治
雪の後
北がわの屋根には、まだ雪が残っているのであろう、廂の下から室内は、広いので、灯がほしいほど薄暗いが、南の雀口にわずかばかりつよい陽の光が刎ね返っていた。きのうにつづいて、終日、退屈な音を繰りかえしている雨だれの無聊さをやぶるように、地面へ雪の落ちる音が、時々、ずしんと、十七人の腸にひびいた。
太平記を借りうけて、今朝から手にしはじめた潮田又之丞が、その度に、きまって、書物から眸を離すので、そばに坐している近松勘六が、
「雪じゃよ」