小川 未明
赤いガラスの宮殿
独りものの平三は、正直な人間でありましたが、働きがなく、それに、いたって無欲でありましたから、世間の人々からは、あほうものに見られていました。
「あれは、あほうだ。」と、いわれると、それをうち消すもののないかぎり、いつしか、そのものは、まったくあほうものにされてしまうばかりでなく、当人も、自分で自分をあほうと思いこんでしまうようになるものです。平三も、その一人でありました。
夏のはじめのころであります。
往来を歩いていると、日ごろ、顔を知っている、村に住む若夫婦が旅じたくをしてきかかるのに出あいました。男は、なにか大きな荷を背負っています。後から、やさしい若い女房が、手ぬぐいを頭にかぶって、わらじをはいてついてきました。