小川 未明
生きた人形
ある町の呉服屋の店頭に立って一人の少女が、じっとそこに飾られた人形に見いっていました。人形は、美しい着物をきて、りっぱな帯をしめて、前を通る人たちを誇らしげにながめていたのです。
「私が、もしあのお人形であったら、どんなにしあわせだろう……。なんの苦労もなしに、ああして、平和に、毎日暮らしていくことができる。そして、前を通る男も、女も、みんな自分を振りかえって、うらやましげに見ていくであろうに……。」と、彼女は、ひとり言をしていたのでした。
このようすを、さっきからながめていた、この店の主人は、頭をかしげました。
「なんという器量のいい娘さんだろう……。しかし、ようすを見ると、あまり豊かな生活をしているとは思われない。さっきから、ああして、人形に見とれているが、ものは相談だ。あの娘さんは、雇われてきてくれないだろうか?」と、主人は考えたのでした。