小川 未明

銀のペンセル

三味線をひいて、旅の女が、毎日、温泉場の町を歩いていました。諸国の唄をうたってみんなをおもしろがらせていたが、いつしか、その姿が見えなくなりました。そのはずです。もう、山は、朝晩寒くなって、都が恋しくなったからです。

勇ちゃんも、もう、東京のお家へ帰る日が近づいたのでした。ここへきて、かれこれ三十日もいる間に、近傍の村の子供たちと友だちになって、いっしょに、草花の咲いた、大きな石のころがっている野原をかけまわって、きりぎりすをさがせば、また、水のきれいな谷川にいって、岩魚を釣ったりしたのであります。

「君、もう、じきに東京へ帰るのか。」と、一人の少年が勇ちゃんにききました。

その子は顔がまるくて、色の黒い快活の少年でした。勇ちゃんは、この少年が好きで、いつまでも友だちでいたかったのです。

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