小川 未明

寒い日のこと

それは、もう冬に近い、朝のことでした。一ぴきのとんぼは、冷たい地の上に落ちて、じっとしていました。両方の羽は夜露にぬれてしっとりとしている。もはや、とんぼには、飛び立つほどの元気がなかったのです。

昨日の夕方、彼は、この山茶花のところへ飛んできました。さびしくなった圃の方から夕日の光を身に受け、やってきて、この美しい、紅い花を見たときに、とんぼは、どんなに喜んだでありましょう。

「まだ、こんなに、美しい花が咲いているではないか。そう悲しむこともない。」と、思ったのでした。

彼は山茶花の葉の上に止まりました。そこにも、あたたかな夕日の光が、赤々として輝っていました。

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