小川 未明

春

「なにか、楽しいことがないものかなあ。」と、おじいさんは、つくねんとすわって、考え込んでいました。

こう思っているのは、ひとり、おじいさんばかりでなかった。町の人々は思い思いにそんなことを考えていたのです。しかし、しあわせというものは、不幸と同じように、いつだれの身の上へやってくるかわからない。ちょうど、それは風のように、足音もたてずに近づくものでした。また、だれもかつて、しあわせの姿というものを見たものはなかったでしょう。

こうして、たくさんの人たちが、てんでに自分の身の上にしあわせのくるのを待っていました。

「しあわせは、いま、どこを歩いているかしらん……。そしてだれのところへ、やってくるかしらん……。」

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