牧野 信一

〔小林秀雄氏への公開状〕

この手紙を書くべく考へはぢめて、もう十日あまりも経つのであるが、手紙といふても稍かたちの違ふものであるから、起きあがつてからと思つてゐるうちに、中々風邪が治らず、もう間に合ひさうもなくなつたから、寝たまゝ弁解風のことを書く。

この間、風邪をひいて寝たはぢめに、いつかの君の小篇小説「からくり」を読み直して、仲々面白かつた。これに就いての、愉快な読後感を書きおくらうと思つた。

いつぞや、レインボーのサロンで、君の眼前でこれを読み、君に読後感を叩かれた時は、内心今度と同じ面白さを感じてゐたにも関はらず、つい、それをそのまゝ云ひ損つてしまつた。一言か二言何か云つただけに終つてしまつたのだつた。

「この次には、こんなのではない、もつと別なのを書く、書いたら見せるぞ。」

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