牧野 信一

その村を憶ひて

怒田村のこと

鬼涙、寄生木、夜見、五郎丸、鬼柳、深堀、怒田、竜巻、惣領、赤松、金棒、鍋川――足柄の奥地に、昔ながらのさゝやかな巣を営んでゐるそれらの村々を私は渡り歩いて、昆虫採集に没頭してゐた。私の、いろいろな短篇小説の中に屡々現れるいくつかの村の名前は、あれは悉く現実の名前なのか? といふ意味の質問を、先夜シエーキスピアの会の帰りに宇野浩二氏から享けた。

「夜見、鬼涙、五郎丸、鬼柳、竜巻?」

と宇野氏は数えられた。

青空文庫の作品カード