牧野 信一

蘭丸の絵

僕等が小学校の時分に、写絵といふものが非常に流行しました。それは毒々しい赤や青の絵具で紙に色々な絵が描いてあつて、例へば武人の顔とか軍旗とか、花とか、その中で自分の気に入つた絵を切り取つて、水にぬらして腕や足に貼付け、上から着物で堅く圧えつけるのです。暫くたつて紙をそつとはがすと、その絵がそのまゝ腕に写つてしまふのです。たゞそれだけの事ですがそれをどういふものかその時分の少年達は、此の上もない面白いものゝやうに思つて、手や足では飽き足らず、終ひには額にまで貼付けて誇つたものです。

一

午休の時間に、僕は臂掛が出来かゝつたので、嬉しくて堪らず、機械体操にぶら下つて夢中になつて練習してゐると、其処へ浜田がやつて来て、

「面白い事をしてゐるから来ないか。」と僕の名前を呼んだ。折角出来かゝつて居るのに、……それに浜田の遊びと云へば写絵に定つて居る。僕は写絵は大嫌ひだつたし、若しそれが家へ帰つて母に知れると大へん叱られるので行く気はしなかつたが、どうしても浜田が来て呉れとまで云ふので、渋々ながら降りて行つた。

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