牧野 信一
辞書と新聞紙
一
あるところに大層偉い王様がありました。お国は大へんよく治つて居りましたが、たつた一つ王様にとつて心配なことがありました。それは王様には王子様が一人も無いといふことなのです。王様は常々からこの事を非常に心配して居られました。
ある時王様は国中にお布令を出しました。そのお布令は、人民の中から王様の試験に合格した者を王子として選ぶといふのでした。
このお布令が出るやいなや国中の少年達は、にはかに大勉強を始めました。街の本屋では学術書は忽ちに売切れとなりました。街の図書館は早朝から夜半まで一分の隙もなく満員となりました。