牧野 信一
雛菊と雲雀と少年の話
ある庭の片隅に一本の雛菊が咲いて居りました。花壇の中には立派やかな牡丹や美しい百合などが、誇り気に咲いて居りましたが、雛菊はさういふ花を見ても、少しも羨しいとは思はず、幸福な日を送つて居りました。
丁度、雛菊の頭の上では雲雀が楽しさうな歌をうたつて居りましたが、雛菊は凝とその歌を聞いて、「あゝ面白い歌だ。」とは思ひましたが、雲雀になり度いなどゝは少しも思はず、やはり自分は自分だけで幸福だ、と考へて居りました。
雲雀が雛菊の傍へ下りて来て、
「まあ、何て奇麗な花だらう!」と云ふと、その声を聞いた牡丹は、「私の美しさを讚めないとは酷い。」と云つて大変怒りました。チユーリツプは頭を持ち上げて、「何だ庭隅の雛菊が。」と云つてセヽラ笑ひました。