牧野 信一

公園へ行く道

「散髪して来よう。」

さう、思ひつくと、彼は、膝の上の夕刊を投げ棄てゝ、安座からむつくりと立ちあがつた。立ちあがつた彼は、如何にも退屈らしく「ウーム」と云つて大きな伸びをした。その彼の伸びは、彼が故意にさうしたのだつた。立ちあがつた動作が余りに唐突で、――といふ気がした彼は、ふと叔母の視線に触れて、ひよいと軽いながらも白けた感じをうけたので、それを、安易さをもつてナチュラルに解決しようといふやうな心で、さうしたのだつた。

「勉強?」叔母は縫物の手を止めて、彼に釣り込まれて思はず休息したかのやうに、両肩をこゝろもち落して彼の方を見あげた。丁度、彼の伸びが終らうとしてゐるところだつた。隣りの家から琴の音が洩れてゐた。冬が終らうとしてゐる静かな生温い宵だつた。叔母は、直ぐに手の先を動かし始めてゐた。

さうと、叔母に何気なく云はれて見ると、彼は無意味な不安を感じた。

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