牧野 信一
香水の虹
窓帷をあけて、みつ子は窓から庭を見降した。やはらかな朝の日射が、ふかぶかと花壇の草花にふりそゝいでゐる。
姉はカーネーシヨンの花が好きだつた。花壇の隅に美しく咲き誇つてゐる桃色の花を眺めながら、みつ子は姉のことをしきりに想ひつゞけた。きらきらと映へた外光はもの懐しく流れてゐる。
姉様がお嫁に行つてしまつてから、もう一年たつたのだ。みつ子は今更のやうにそんなことを考へた。行つた当座は少くも、一週に一度は必ず手紙を寄越したけれど、それもいつの間にか怠り勝になつたと見へて……。
「あゝさうだ。」と、みつ子は恰も突然何かを見出したやうに点頭いた。……「ふた月ばかり前に絵葉書をたつた一枚寄したきりなんだ。」