牧野 信一
清一の写生旅行
ある土曜日の放課後、清一はカバンを確かりとおさへて、家ンなかへ慌しく駆け込むやいなや、其の儘帽子も脱がず、
「お母さん!」と叫んだ。
「何だね、騒々しいぢやないか。お前またお友達と喧嘩でもしたんぢやないの?」と、縫物をしてゐた彼の母は、驚いたやうに軽く眼を挙げて彼を睨んだ。
学校から家までかなりの道程を、夢中になつて駆けて来た清一は、息が切れて、おまけに少し慌てると、吃る癖のある彼は、容易に言葉が続けられなかつた。
牧野 信一
ある土曜日の放課後、清一はカバンを確かりとおさへて、家ンなかへ慌しく駆け込むやいなや、其の儘帽子も脱がず、
「お母さん!」と叫んだ。
「何だね、騒々しいぢやないか。お前またお友達と喧嘩でもしたんぢやないの?」と、縫物をしてゐた彼の母は、驚いたやうに軽く眼を挙げて彼を睨んだ。
学校から家までかなりの道程を、夢中になつて駆けて来た清一は、息が切れて、おまけに少し慌てると、吃る癖のある彼は、容易に言葉が続けられなかつた。