牧野 信一
お父さんのお寝坊
「いくら日曜の朝だからつて、もうお起ししなければいけませんわ。もう十時ぢやありませんか。美津子さん、お前お二階に行つてお父さんをお起ししていらつしやい。」
お母さんにかう云はれると、美津子は直ぐに立ちあがりました。他の用だとかう直ぐには承知しないのですが、お父さんをお起しするといふことが、大好きなのです。別に理由もないんですが、何だか自分が斯うちよつと偉くなつたやうな気がするからなのでせう。
春風そよ吹く空を見れば――美津子は、そんな唱歌を歌ひながら、トントンと威勢よく梯子段を昇つて行きました。さうして、唐紙を開けると同時に、「お父さん!」と、大きな声で呼びました。お父さんはと見ると、スツポリ頭から布団をかぶつて、恰で亀の子のやうな形をしてグウ/\眠つてゐます。
「お父さん!」と、更にもう一度美津子は呼ばはりました。やつぱり手応へがありません。