牧野 信一

四郎と口笛

一

四郎は、つい此の間から、何時といふことなしに口笛が吹けるようになつた。どうしてそれが吹けるようになつたか? 自分にも気がつかなかつた。

「またお前は口笛を吹いてゐる。勉強しながら口笛なんて吹くものぢやありません。」と、四郎は母から叱られた。

なる程四郎は、机の前に坐つて、宿題の算術をやつてゐるところだつた。――四郎は、母の声を耳にすると同時に、ハツと気づいて、思はず手の平で口をおさへた。

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