牧野 信一
目醒時計の憤慨
一
あしたはきつと五時に起きよう――と、また美智子さんは、堅く決心しました。あしたこそ大丈夫だ――と、更に美智子さんは、自分の胸に念をおしました。そして今年の春、叔父さんから貰つた大形の眼醒時計を書棚の上から取りおろして、ぴつたり朝の五時にベルをかけました。この時計は、ベヒーベンとか云ふ米国製の時計で、暗闇のなかでも指針と文字が青白い光を放つて、はつきりと読めます。
美智子さんは時計を枕もとに据えて、なるべく耳をそばだてるやうなつもりで寝床へ入りました。間もなくお母さんがきて、
「お前は毎晩毎晩時計の用意ばかりしてゐるくせに、未だ一度も五時に起きられたことがないのね。」と、笑ひながら云ひました。