小川 未明
楽器の生命
音楽というものは、いったい悲しい感じを人々の心に与えるものです。いい楽器になればなるほど、その細かな波動が、いっそう鋭く魂に食い入るように、ますます悲しい感じをそそるのであります。そして、奏でる人が、名手になればなるほど、堪えがたい思いがされるのでした。
愉快な楽器があったら、どんなに人々がなぐさめられるであろうと、ある無名な音楽家は考えました。
その人は、どうしたら、愉快な音が出るかと、いろいろに苦心をこらしたのです。そして、笛や、琴のような、単純な楽器では、どうすることもできないけれど、オルガンのように、複雑な楽器になったら、なんとかして、その目的が達せられは、しないかということを考えたのです。
彼は、日夜、いい音色が出て、しかも、それがなんともいえない愉快な音であるには、どうしたら、そう造られるかということに研究を積んだのであります。彼は、最初、純金の細い線でためしました。しかし、その音色は、あまりに澄んで、冴えきっています。つぎに、金と銀と混じて細い線を造りました。これは、また、調子が高いばかりで、愉快な音ということができませんでした。