小川 未明
負傷した線路と月
レールが、町から村へ、村から平原へ、そして、山の間へと走っていました。
そこは、町をはなれてから、幾十マイルとなくきたところでした。ある日のこと、汽車が重い荷物や、たくさんな人間を乗せて過ぎていきましたときに、レールのある部分に傷がついたのであります。
レールは、痛みに堪えられませんでした。そして泣いていました。自分ほど、不運なものがあるだろうか。毎日、毎日、幾たびとなしに、重い汽罐車に頭の上を踏まれなければならない。汽罐車は、それをば平気に思っている。そればかりでなく、太陽が、身を焼くほど、強く照らしつける。日蔭にはいろうとあせっても自由に動くことができない。太い釘が自分の体をまくら木にしっかりと打ちつけている。考えてみると、いったい自分の体というものはどうなるのであろうか……と、レールは、思って泣いていました。
「どうなさったのですか?」と、そばに咲いていた、うす紅色をしたなでしこの花が、はじらうように頭をかしげてたずねました。