小川 未明
北の不思議な話
おせんといって、村に、唄の上手なけなげな女がありました。たいして美しいというのではなかったけれど、黒い目と、長いたくさんな髪を持った、快活な女でありました。機屋へいって働いても、唄がうまいので、仲間からかわいがられていました。
これらの娘たちは、年ごろになると、たいていは近傍の村へ、もしくは、同じ村の中で嫁入りをしましたのに、どうした回り合わせであるか、おせんは、遠いところへゆくようになったのです。
村で、おせんの望み手がないのでなかった。そればかりでなく、みんなは、その結婚をいいと思わなかった。しかも、彼女は孤児であって、叔母さんに育てられたのであるが、叔母さんも、この結婚には不賛成でした。なぜなら、相手というのは、遠い旅から行商にきた、貧しげな青年だったからです。
この青年は、村へやってきて、娘たちに、貝がら細工や、かんざしや、香油のようなものを並べて商ったのです。そして、ときに、彼は山のあちらの国々の珍しい話などを聞かせたりしました。おせんは、あるとき、彼が、子供の時分に両親に別れて、その父母の行方がわからないので、こうして、旅から旅へさすらって探しているという話を聞いたときに、同じ孤児の身の上から、彼に同情するようになったのでした。