小川 未明

脊の低いとがった男

太郎が叔母さんから、買ってもらった小刀は、それは、よく切れるのでした。あまり形は、大きくはなかったけれど、どんな太い棒でもすこし力をいれれば、おもしろいように切れるのでした。

太郎は、いままで持っていた小刀を捨ててしまいました。その小刀は、いくらといでもよく切れなかったのです。太郎には、よくとぐことができなかったのにもよりますけれど、もとから、その小刀は、よく切れなかったのでした。紙を切るにも、ひっかかるようであったり、また鉛筆を削るにもガリガリ音がして、よく切れないのでありました。

それにくらべると、こんどの小刀は、ひじょうによく切れたのです。紙を切るのにも、ほとんど音がしなければ、また鉛筆を削るのにもサクリサクリと切れて、それは、おもしろかったのであります。

そんないい小刀を持つことのできた太郎は、幸福でありました。いつも、鉛筆の先は、木の香がするようにきれいに削られていて気持ちがよかったからです。太郎は、かばんの中へ、その小刀を失わないように大事にしまって、やがて、学校の終わった鐘が鳴ると、いつものように、急いで、我が家の方へ帰ってきました。

青空文庫の作品カード