小川 未明
老工夫と電灯
崖からたれさがった木の枝に、日の光が照らして、若葉の面が流れるように、てらてらとしていました。さびしい傾斜面に生えた、草の穂先をかすめて、ようやく、この明るく、広い世界に出たとんぼが、すいすいと気ままに飛んでいるのも、なんとなく、あたりがひっそりとしているので、さびしく見られたのであります。
年とった工夫が、うつむきながら、線路に添うて歩いていました。若い時分から、今日にいたるまで働きつづけたのです。元気で、よく肥っていた体は、だんだんやせてきました。そして、一時のように、重いものを持ったり、終日働きつづけるというようなことは、いまでは困難を感じられたのであります。
青い色の服の下に、半生の経験と悩みと生活に堪えてきた体が、日に焼けて、汗ばんでいました。
どこかで、無心にせみが唄をうたっている声がしています。たぶん、あちらの嶺の上に生えている赤松のこずえのあたりであると思われました。