正宗 白鳥
入江のほとり
一
長兄の栄一が奈良から出した絵葉書は三人の弟と二人の妹の手から手へ渡った。が、勝代のほかには誰も興を寄せて見る者はなかった。
「どこへ行っても枯野で寂しい。二三日大阪で遊んで、十日ごろに帰省するつもりだ」と筆でぞんざいに書いてある文字を、鉄縁の近眼鏡を掛けた勝代は、目を凝らして、判じ読みしながら、
「十日といえば明後日だ。良さんはもう一日二日延して、栄さんに会うてから学校へ行くとええのに」
正宗 白鳥
一
長兄の栄一が奈良から出した絵葉書は三人の弟と二人の妹の手から手へ渡った。が、勝代のほかには誰も興を寄せて見る者はなかった。
「どこへ行っても枯野で寂しい。二三日大阪で遊んで、十日ごろに帰省するつもりだ」と筆でぞんざいに書いてある文字を、鉄縁の近眼鏡を掛けた勝代は、目を凝らして、判じ読みしながら、
「十日といえば明後日だ。良さんはもう一日二日延して、栄さんに会うてから学校へ行くとええのに」