小川 未明

遠方の母

正ちゃんは、三つになったときに、はじめて自分には、お母さんのないことを知りました。それは、どんなにさびしかったでありましょう。みんなに、お母さんがあるのに、どうして、自分にばかり、お母さんがないのか? それで、正ちゃんは、女中の脊中におぶわれながら、

「お母ちゃん、……お母ちゃん。」と、小さな掌で、女中の肩のあたりをたたきながら、呼びました。

それは、「私には、ほかの子供たちのように、やさしいお母さんがないの?」と、たずねていることがよくわかりましたので、女中は、

「坊ちゃんのお母さんは、ののさまになってしまわれましたのですよ。」といって、青い空の方を指したのであります。

青空文庫の作品カード