夢野 久作

あやかしの鼓

私は嬉しい。「あやかしの鼓」の由来を書いていい時機が来たから……

「あやかし」という名前はこの鼓の胴が世の常の桜や躑躅と異って「綾になった木目を持つ赤樫」で出来ているところからもじったものらしい。同時にこの名称は能楽でいう「妖怪」という意味にも通っている。

この鼓はまったく鼓の中の妖怪である。皮も胴もかなり新らしいもののように見えて実は百年ばかり前に出来たものらしいが、これをしかけて打ってみると、ほかの鼓の、あのポンポンという明るい音とはまるで違った、陰気な、余韻のない……ポ……ポ……ポ……という音を立てる。

この音は今日迄の間に私が知っているだけで六、七人の生命を呪った。しかもその中の四人は大正の時代にいた人間であった。皆この鼓の音を聞いたために死を早めたのである。

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