小川 未明
少女がこなかったら
寒い、暗い、晩であります。風の音が、さびしく聞かれました。ちょうど、真夜中ごろでありましょう。
コロ、コロ、といって、あちらの往来をすぎる車の音が、太郎のまくらもとに聞こえてきました。もう、だいぶねあきていましたので、彼はふと目をあけて、その車の音に、耳をすましたのでした。
「いま時分、あんな車を引いてゆくのは、どんな人間だろう?」
こう、彼は考えました。すると、それは怖ろしい人のようにも思われました。というのは、その音は、いま、はじめて聞く車の音ではなかったのです。