小川 未明
扉
一
陰気な建物には小さな窓があった。大きな灰色をした怪物に、いくつかの眼があいているようだ。怪物は大分年を取っていた。老耄していた。日が当ると茫漠とした影が平な地面に落ちるけれど曇っているので鼠色の幕を垂れたような空に、濃く浮き出ていた。
室の中にはいくつかの室が仕切ってあった。いずれも長方形の室で壁が灰色に塗ってあった。この家は外形から見て陰気なばかりでなく中に入ると更に陰気であった。このまま動き出したら、疑いもなく魔物であった。
夜になると、このいくつかの眼に赤く燈火が点る。中に人が住んでいるからだ。だから全く死んだ怪物の骸が野中に捨てられてあるのでない。動かなくとも幾分かの生気があるのだ。