小川 未明
夜の喜び
私は、夜を讃美し、夜を怖れる。
青い、菜の葉に塩をふりかけて、凋れて行く時の色合のような、黙って、息を止めているような、匂いはないけれど、もしこれを求めたら、腥い匂い、それも生々しい血汐の流れている時分の臭いでなく、微かに、ずっと前に、古くからそこに残っている匂いがするような、青い月夜もある。
風もなく、雨も降らず、大空には星の光りも隠れて、しかも厚い鉄板を頭の上に張り詰めたような重苦しい、大きな音を立てても、音の通らないような、次第次第に、何等か大きな黒い楯が迫って来て、息の音を圧してしまいそうな闇の夜もある。
そして、この青白い月夜と黒色の闇の夜とは、私に性質の異った恐怖を与えている。