岸田 国士
隣の花
一
郊外にある例の小住宅向き二軒長屋。形ばかりの竹垣で仕切られた各々二十坪ほどの庭――霜枯れ時の寂寥さを想はせる花壇に、春の終りゆえ、色取り/″\の草花が咲き乱れてゐる。
その庭を、朝七時、両家の主人、目木と久慈とが、何れも歯楊枝をくはへ、手拭を、一方は肩にかけ、一方は腰に下げて、ぶら/\歩きまはつてゐる。
目木 どうも近頃の天気予報はなか/\よく当りますね。久慈 まだ、これで、どう変るかわかりませんよ。しかし、昨夕の様子ぢや、たしかに雨でした。目木 僕は、あの護謨の長靴を穿くとまつたく憂鬱を感じるんです。久慈 同感です。あれや、どう見ても靴の形をなしとらんですからね。(間)あなたは、歯麿は、何をお使ひですか。目木 僕ですか。僕はライオンです。家内が来るまではクラブでした。久慈 僕は、あべこべだ。へえ、さうですか。奥さんが来られてから……。目木 いや、さう云ふ訳ぢやありませんが、何時の間にか、さうされちまつたんです。別々にして置くのも面倒ですしね。まあ、どつちでも、僕は同じことなもんだから……。久慈 さう、さう。何処でも事情は同じと見えるなあ。奥さんが見えたのは、たしか去年の秋でしたね。はやいもんですね。目木 此処へ越して来てから間もなくでした。此処へ来た当座は、あなたがた御夫婦の生活を、なんと云ひますかな、一種の好奇心を以て眺め暮したものです。久慈 さう云へば、その頃は、こちらも遠慮があつて、御交際も差控へてゐたやうな訳だつたんですが……。お母さんはその後お達者ですか。目木 国の方で、兄哥の家の台所を手伝つてゐますよ。久慈 どうです、近頃は