中谷 宇吉郎
茶碗の曲線
もう二十年以上も昔の話であるが、考古学を専攻していた私の弟が、東大の人類学教室で、土器の研究をしていたことがある。
その頃は、まだ今日のように、土器の型式による分類などは、ほとんど出来ていなかった。弟はその分類の仕事にとりかかって、何か科学的な分類法がないかと、いろいろ考えていた。
土器の形は、個々の標本では、もちろんそれぞれ著しく異るが、特定の地域から出る或る時代と推定される土器をたくさん集めて、全体として見ると、その間に共通した一定の型式がある。それによって、何々式という名前が与えられ、大まかな分類がなされていたのである。
こういう分類の方法は、土器と限らず、いわゆる美術骨董品などの鑑定には、度々用いられているやり方である。たとえば、鍍金仏などを専門家が一眼見て、これは六朝だとか、もう少し旧いとかいうようなことをいうのは、皆この型式を見るわけである。仏像とか、絵とか、道具とかいうものは、形が非常に複雑であり、その上色だの、材質だのが、変化無限であるから、科学の方でやっているような簡単で明瞭な分類というものは到底出来そうもない。その点、土器は形も簡単であり、色や材質の差も少いので、こういう研究目的には、恰好の材料である。