中谷 宇吉郎
I駅の一夜
まだ戦争中の話である。
三月十日の未明、本所深川を焼いたあの帝都空襲の余波を受けて、盛岡の一部にも火災が起きた。丁度その時刻には、私は何も知らずに、連絡船の中でぐっすり寝ていた。
青森に着いても何事も知らされず、いつものように乗客は先を争って汽車に乗ろうとし、それを制止する駅員の声がとぎれとぎれに雑沓の中に響く、普段通りの連絡駅風景であった。雪が少しばかり降っていた。
やっと座席がとれてほっとした。やれやれこれでとにかく東京まで行けるのである。黙って坐ってさえいれば、いつかは東京に着けるということが、この頃は少し不思議なことのように感ぜられるくらいである。