中谷 宇吉郎

南画を描く話

昨年の春から、自分では南画と称しているところの墨絵を描くことを始めた。

南画を描くなどというと、段々年をとると、油絵よりも墨絵の方が良くなるそうだねなどと冷かされることもある。しかし私の場合は、そういう趣味が枯れて来たなどという洒落れた話ではなく、もっと現実な理由があるのである。

それはこの頃のように段々忙しくなって来ては、どうにも油絵など描いている閑はなくなってしまったからである。

閑のあるなしは、時間の問題ではなくて、心持の問題だということは真理であるが、それにしても、油絵のように、正味十時間とか十五時間とかとられるのでは、どうにもやり切れない。

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