中谷 宇吉郎
硝子を破る者
汽車はあいかわらず満員である。
吹雪で遅れ遅れするので、駅には前からの乗客が溜って益々混雑をひどくするらしい。
やっと窓際の席がとれて、珍しいことと喜んだのも束の間、硝子が破れているので、雪を雑えた零下十度の風が遠慮なく吹き込んで来る。とてもたまったものではない。前に坐っている五十余りの闇商人らしい男が、風呂敷を窓にあてがっているが、どうも巧くとまらない。
何度もやって見てとうとう諦めたらしく、外套の襟を立て襟巻をぐるぐる首に巻いて、身体を丸くして縮まり込んでしまった。風呂敷がばたばたと風にあおられて、五月蠅いばかりでなく、余計に寒いような気がする。