中谷 宇吉郎

おにぎりの味

お握りには、いろいろな思い出がある。

北陸の片田舎で育った私たちは、中学へ行くまで、洋服を着た小学生というものは、誰も見たことがなかった。紺絣の筒っぽに、ちびた下駄。雨の降る日は、藺草でつくったみのぼうしをかぶって、学校へ通う。外套やレインコートはもちろんのこと、傘をもつことすら、小学生には非常な贅沢と考えられていた。

そういう土地であるから、お握りは、日常生活に、かなり直結したものであった。遠足や運動会の時はもちろんのこと、お弁当にも、ときどきお握りをもたされた。梅干のはいった大きいお握りで、とろろ昆布でくるむか、紫蘇の粉をふりかけるかしてあった。浅草海苔をまくというような贅沢なことは、滅多にしなかった。

しかしそういうお握りの思い出は、あまり残っていない。それよりも、今でも鮮かに印象に残っているのは、ご飯を焚いた時のおこげのお握りである。

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