小川 未明
大きなかしの木
野の中に、一本の大きなかしの木がありました。だれも、その木の年を知っているものがなかったほど、もう、長いことそこに立っているのでした。
木は、平常は、黙っていました。だれとも話をするものがなかったからです。あたりにあった木はいずれも小さく、背が低うございました。その木の親たちは、かしの木を知っていましたが、もうみんな枯れてしまって、子や孫の時代になっていたのでした。そして、子や、孫は、昔のことを語ろうにも知ってはいないからでした。
山から飛んできた小鳥も、たいていはちょっと枝に止まることがあるばかりで、いずれも、秋ならば赤く実の熟した木へ、春ならば、つぼみのたくさんについている枝へ降りていって、長くこの木と話をしているものもなかったのです。
この木も、若い時分は、ほかの木にまけないほどに、美しくなりました。しなやかな枝には葉の色は銀色に光って、なよなよと風に動いていたものですが、年をとるにしたがって、だんだん木は、気むずかしくなりました。そして、いつのまにか、のびのびとした、しなやかさはなくなり、葉の色も暗く黒ずんで陰気になり、そして、木は、たいへんに無口になってしまったのです。