小川 未明
風の寒い世の中へ
一
お嬢さんの持っていましたお人形は、いい顔で、めったに、こんなによくできたお人形はないのでしたが、手もとれ、足もこわれて、それは、みるから痛ましい姿になっていました。
けれど、お嬢さんは、そのお人形に美しい着物をきせて、本箱の上にのせておきました。かわいらしい顔つきをしたお人形は、いつでもにこやかに笑っていました。そして、あちらに、かかっている柱時計を小さな黒い目でじっと見つめていたのです。
お人形には、このお嬢さんのへやのうちが、広い世界でありました。まだ、これよりほかの世の中を見たことがありません。それでお人形は、満足しなければならなかったのです。なぜなら、このへやは、住みよくて、そして、ここにさえいれば、まことに安心であったからでありました。