小川 未明
砂漠の町とサフラン酒
むかし、美しい女が、さらわれて、遠い砂漠のあちらの町へ、つれられていきました。疲れているような、また、眠いように見える砂漠は、かぎりなく、うねうねと灰色の波を描いて、はてしもなくつづいていました。
幾日となく、旅をすると、はじめて、青い山影を望むことができたのであります。
そのふもとに、小さな町がありました。女は、そこへ売られたのです。女自身をのぞいて、だれも、彼女のふるさとを知るものはありません。また、だれも、彼女の行方を悟るものとてなかったのであります。
彼女は、ここで、その一生を送りました。サフラン酒を、この町の工場で造っていました。彼女は、その酒を造るてつだいをさせられていたのでした。