小川 未明
北海の波にさらわれた蛾
鈍い砂漠のあちらに、深林がありましたが、しめっぽい風の吹く五月ごろのこと、その中から、おびただしい白い蛾が発生しました。
一時、ときならぬ花びらの、風に吹かれたごとく、木々の枝葉に蛾がとまっていたのです。それは、また、ちょうど、降りかかった、冷たい雪のようにも見られました。
しかし、その深林は、蛾にとって、あまり好ましくなかった。夏にでもなれば、そこにはいろいろの毒草や、雑草に花が咲いたであろうけれど、この時分には、まだ花が少なかったからです。
ある日のこと、蛾の仲間が、外から林に帰ってくると、おおぜいに喜ばしい知らせをもたらしたのでした。