斎藤 茂吉

イーサル川

イーサル川は南の方のアルプス山中から出て、北へ向つて流れてゐる。分水嶺は既に独逸の国境を越して墺太利の領分になつてゐるので、さう手易く其処を極めることは出来ないやうである。

川の沿岸には、T※(ダイエレシス付きO小文字)lz, M※(ダイエレシス付きU小文字)nchen, Landshut, Landau などの町があり、ミユンヘンはそのうちで一番大きい。川は道を稍東の方に取つて、Deggendorf の近くに来てドナウに這入る。T※(ダイエレシス付きO小文字)lz からもつと水上に Lenggries といふ一小邑があり、眺のいい城がある。Hohenburg の城といふのはそれである。

ドナウの流れは『藍のドーナウ』と謂ふが、ここは、『緑のイーサル』である。“Solang die gr※(ダイエレシス付きU小文字)ne Isar, durch's m※(ダイエレシス付きU小文字)nch'ner Stadt'el geht.”といふ古い歌謡は、ミユンヘンの市民が麦酒に酔うてよくうたふのであつた。

私は西暦一九二三年の夏にこの土地に来、翌年の夏までゐたので、屡この川に親しみ、心に憤怒があり、心に違和があるときには、いつも私はひとりこの川べりに来て時を消すことをしてゐた。

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