上司 小剣

天満宮

一

府立病院の二等室は、其の頃疊が敷いてあつた。竹丸の母は其の二等室に入つてから、もう四ヶ月の餘にもなる。一度竹丸をよこして呉れと、度々父への便りに言つて來たけれど、父は取り合ひもしなかつた。

千代松といふ子供のやうな名を有つて居る人があつた。四十二の厄年が七年前に濟んだ未の八白で、「あんたのお父つあんと同い年や」と言つてゐるが、父に聞くと、「やいや、乃公は亥の四緑で、千代さんより四つ下や」と首を振つてゐた。けれども竹丸の眼には却つて父の方が老人に見えた。竹丸は今年十二で、二十歳ぐらゐの人はもう年寄のやうに思つてゐた。

千代松といふ人は頭髮を丁髷に結つてゐた。幾ら其の頃でも、村中で丁髷はただこの千代松の頭の上に見らるゝだけであつた。年に比べて髷が大きいといふことで、人々はよく千代松の髷のことを「××の金槌」と呼んでゐた。

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