津田 左右吉
日本歴史の特性
日本の歴史の特性ということを話そうとすれば、つまりは日本の歴史そのものを話さねばならぬことになる。日本の歴史の特性は、全体としての日本の民族生活の歴史的発展の上にあらわれているものであり、そうして、その民族生活にも、その発展のすがたにも、いろいろの方面があって、しかもそれらが互にはたらきあって一つの生活となりその発展となるものだからである。けれども、ここでそういう話をするわけにはゆかないから、日本の民族生活の発展のありさまにおいて大切だと思われること、著しく目にたつことの、二つ三つをとり出して話してみるより外にしかたはあるまい。しかし、だれにもよく知られていることは、ことさらにいうには及ぶまいから、ここでは、大せつなことでありながら世間ではわりあいに重く見られていないというようなことがらを述べてみようと思う。ここに述べることだけが特性であるというのではない。なおここでいうのは主として文化史の側面においてであることをも、あらかじめおことわりしておく。
そこで、第一に考えられるのは、日本の歴史は日本民族全体のはたらきによって発展して来たということである。それには、中央の権力者に対する意味での地方人のはたらきと、上流人に対する意味での民衆のそれと、の二つにわけて考えることが一ととおりはできると思うから、まずはじめの方のからいってみることにする。遠いむかしに日本の民族が一つの国家として政治的に統一せられた後も、地方にはクニノキミ(国造)アガタヌシ(県主)などといわれていた豪族が、それぞれ土地と民衆とをもっていたので、富は地方に蓄わえられていた。またナカトミ氏とかオオトモ氏とかモノノベ氏