高浜 虚子

古江

一

一人の女が鍋を洗つて居る。其れは石崖の裾から半身を現はしたのである。其の鍋を洗つてゐる水の波紋が起る。無花果の樹が蔽ひかぶさるやうに延びてゐる。其の波紋が静まると思ふと、又別の波紋が遥か向うの別の無花果の樹の蔭から起る。

向うに立つて居る人が、

「こちらへ来て御覧なさい。」

青空文庫の作品カード