猪狩 満直
炭坑長屋物語
北海道の樺太
「北海道のカラフト」みんな、そこの長屋をそう呼んでいた、谷間に並べ建てられたカラフト長屋、一日中ろくすっぽ陽があたらず、どっちり雪の積んでいる屋根から、煙突が線香を並べたように突き出ていた、俺は時々自分の入口を間違い、他家の戸口を開けた、屋根の煙突の何本目、そいつを数えて這入るのが一番完全であった「来年の四月頃になれば陽があたりますよ」古くから此処の長屋に住んでいる工夫の妻がそう言い俺達に聞かしてくれた。来年の四月、その四月がとても待ち遠しかった。
八号の一
親父さんは昼番嬶は夜番親父さんが帰って来る時嬶は家に居なかった嬶が帰って来る時親父さんは家に居なかった仕事から帰って来ると二人は万年床に代る代る寝た年の暮の三十日の晩、公休で二人共家にいた僕に遊びに来え来え言うので僕が行くと親父さんはもう酔うて顔をほてらしていた「いや、大将 共稼ぎって奴はね…………… 今日は久濶で嬶にお目にかかってさ まるで俺あ色女にでも会ったような気持よ 大将、人間っていうものは、いくつになっても気持はおんなじですぜ」嬶は下をつんむいた位にしてやっぱりうれしそうないくらか気の毒そうな笑いをもらしていた。