李 孝石
蕎麦の花の頃
夏場の市はからきし不景気で、申ツ半時分だと露天の日覆の影もそう長くは延びていない頃だのに、衢は人影もまばらで、熱い陽あしがはすかいに背中を焙るばかりだった。村のものたちはあらかた帰った後で、ただ売れはぐれの薪売りの組がはずれの路傍にうろうろしているばかりだが、石油の一と瓶か乾魚の二三尾も買えばこと足りるこの手合を目当にいつまでも頑張っている手はなかった。しつこくたかってくる蠅と餓鬼共もうるさい。いもがおで左利きの、太物の許生員は、とうとう相棒の趙先達に声をかけた。
――たたもうじゃねえかよ。
――その方が気が利いてるだ。蓬坪の市で思うようにはけたこたあ一度だってありゃしねえ。明日は大和の市じゃで、もりかえしてやるだよ。
――今夜は夜通し道中じゃ。