久生 十蘭
ユモレスク
一
出かける時間になったが、やすが来ない。離室になっている奥の居間へ行ってみると、竹の葉影のゆらぐ半月窓のそばに、二月堂が出ているだけで、あるじはいなかった。
壁際に坐って待っているうちに、六十一になるやすが、息子の伊作に逢いに一人でトコトコ巴里までやってきた十年前のことを思い出した。
滋子は夫の克彦と白耳義にいたが、十二月もおしつまった二十九日の朝、アスアサ一〇ジパリニツクというやすの電報を受取ってびっくりした。
久生 十蘭
一
出かける時間になったが、やすが来ない。離室になっている奥の居間へ行ってみると、竹の葉影のゆらぐ半月窓のそばに、二月堂が出ているだけで、あるじはいなかった。
壁際に坐って待っているうちに、六十一になるやすが、息子の伊作に逢いに一人でトコトコ巴里までやってきた十年前のことを思い出した。
滋子は夫の克彦と白耳義にいたが、十二月もおしつまった二十九日の朝、アスアサ一〇ジパリニツクというやすの電報を受取ってびっくりした。