大倉 燁子

美人鷹匠

九年前の出来事

小夜子は夫松波博士の出勤を見送って茶の間に戻ると、一通の封書を受取った。裏にはただ牛込区富久町とだけ書いてある。職業柄、こうした差出人の手紙は決して珍らしいことではないが、これは優しい女文字でしかも名前がない、彼女は好奇心にひかされて主人宛の親展書であるにかかわらず、開封した。

「旦那様!」という書き出しにまず眉を曇らせ、キッとなって読み始めた。

「あなた様は突然こういうことをお聞きになってもお信じになれないかも知れませんが、どうぞ、私の申上げるこの偽りのない物語を最後までお読み下すって、切なる私のお願いをおきき下さいませ。

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