野村 胡堂

銭形平次捕物控

一

「人の心といふものは恐ろしいものですね、親分」

八五郎が顎を撫で乍ら、いきなりそんな事を言ふのです。

「あれ、大層物を考へるんだね。菓子屋の前を通ると、店先の大福餅をつかみ喰ひしたくなつたり、酒屋の前を通る度に、鼻をヒク/\させるのも、人間の心の恐ろしさだといふわけだらう」

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