野村 胡堂

銭形平次捕物控

一

「八、あれに氣が付いたか」

兩國橋の夕景、東から渡りかけて平次はピタリと足を停めました。

陽が落ちると春の夕風が身に沁みて、四方の景色も何んとなく寒々となりますが、橋の上の往來は次第に繁くなつて、平次と八五郎が、欄干に凭れて水肌を見入つてゐるのを、うさんな眼で見る人が多くなりました。

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