野村 胡堂

銭形平次捕物控

一

本郷妻戀町の娘横丁、――この邊に良い娘が多いから土地の若い衆が斯んな名で呼びましたが、何時の間にやら痴漢が横行して、若い娘の御難が多く、娘受難横丁と言ふべきを省略して娘横丁と、其儘の名で呼び慣はしました。

其路地の眞ん中に、血だらけの男が一人、大の字になつて引つくり返つて居たのです。見付けたのは毎朝聖堂に通ふ、儒生の吾妻屋丹三郎、若旦那崩れで、身體が弱くて、足が惡く、その上落ぶれ町人で、まともには聖堂に通ふわけに行かず、散歩かた/″\門外から遙かに孔子の像を拜んで涙を流して歸つて來るといつた、世にも氣の毒な純情青年でした。

「わツ、人殺しツ」

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